カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
中一の時。なんとなく入った本屋さんで、特に欲しい本があったわけでもなかった私は、適当にぶらぶらしていた。

待ち合わせでもなんでもなくて、ただの暇つぶしだった。

参考書が沢山並ぶ棚の前で、一人の男子がボーッと突っ立ってたから興味本位で話しかけただけだった。

あの日の、ビリビリに破かれて風に舞う画用紙を眺めていた男の子をふと思い出したから…。

「中三だって答えたら、その学園に行きたいのに今から勉強するんですか?ちょっとキツくないですか?って砂雪は言ったんだ。しっかりしてるっていうか、物怖じしない口調も、真っ直ぐに俺を見る目もなんにも変わってなくて、すぐにでも抱き締めたい衝動に駆られた。でもまだ今じゃないって何度も何度も言い聞かせて、俺は必死で耐えてた」

「なんでそう思ったんですか?」

「俺はまだ完璧じゃなかった。本屋で悩んでたのもこの学園に入る決意ができてなかったからだ。入ったら入ったで自分に求められる物の大きさにも気づいてた。今の俺じゃあどうしたって父親の権力に縋ることになる。そうはなりたくなかった。砂雪に再会したことでやっと覚悟を決められた。絶対的な存在になって、俺にできないことなんか無いくらい大きな存在になって必ず砂雪を見つけ出す。それだけが生きる理由だった」

「大袈裟です。本当に」

「大袈裟なんかじゃない。あの日、貸してくださいって俺の手からお前が参考書を奪った。お前がそれを触った瞬間に、自分が握りしめてた本が赤い表紙だったことを認識した。またお前が世界に色をつけてくれた。あの日…」

「はい」

「二人で行った依頼のこと覚えてるか?」

「空と雨の色ですか?」

頷いた先輩の漆黒の瞳がキラッと光った気がした。
もしかしたら涙かもしれない。

「砂雪が言った言葉は本当だった。俺の世界に映る色は、お前が教えてくれるものだけでいい。お前が綺麗だって言うなら、俺はそれだけを信じて生きていけるって思った」
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