カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「砂雪ちゃん、遅い。何してたの」

美術室は教室や生徒会室がある校舎とは別棟に入っている。

本校舎と別棟を繋ぐように芝生が整備されていて、花壇も豊かだ。

別棟には美術室、音楽室、技術室、演劇部とか、芸術に関する教室が集められていた。

美術室は四階にあって、そこには美術室と美術準備室がある以外は全部空き教室だった。

「すみません。ちょっとお腹痛くなっちゃって」

「そうなの?大丈夫?」

「はい。もう平気です。それより皆さん…何やってるんですか?」

本校舎と別棟の間、庭の木々に隠れるようにして本郷先輩、中村さん、戸田さん、長谷川さんが身を寄せ合っている。

「静かにしろ」

「はい」

私を一瞬見ただけで、本郷先輩は黙って俯いている。
さっきの先輩は一体なんだったのか聞きたいけれど、みんなの前ではさすがに聞けなかった。

まだ先輩のくちびるが触れた首筋が熱を持っている気がする。

「鈴城さんは?」

声をひそめて聞いたら、長谷川さんが持っていたノートで本校舎と庭を繋ぐ踊り場のほうを指した。

十人くらいの女子の集まりに対して鈴城さんが何か話している。
ここからじゃ会話までは聞こえない。

しばらく誰も動かないままジッとしていたら、五分くらいして鈴城さんが戻ってきた。

「お待たせー」

珍しく小声で謝りながら、鈴城さんは私達に手を合わせた。

「どうしたんですか?」

「カナデについてきちゃったのよ。ずっとあそこで見られたら調査できないでしょ?追い払ってきたの」

「素直に聞いてくれました?」

「まぁ…なんとかね」

「でも絶対どこかで見られてますよ」

戸田さんがポケットに手を入れて片足をぶらぶらさせながら本校舎のほうを見上げた。
肉眼で確認できるだけでも窓からこっちを見ている生徒が何人も確認できた。

「んー…カナデ、ちょっと抜けたほうがいいかも」

「はぁ?」

「これじゃあほんとに調査できないじゃない」

「だから学園内の調査は無理だって言ったんだよ」

「しょうがないでしょー!お父様が受けちゃったんだから」

「カナデさん、どうしますか?」

「中村ちゃん、やっぱ任せてもいい?私達は生徒会室戻るよ」

「戻るんですか?」

「砂雪ちゃんごめんねー。色々教えてあげたかったんだけど。みんなに教えてもらってね」

「分かりました」
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