カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「じゃあ中村ちゃん、お願いね」

「はい」

「それじゃあ私も戻ります」

「戸田さんも?」

「これだけ見られてたら動きにくいから。人数は少ないほうがいいでしょ。今日は会計の仕事は無いし、長谷川さんは書記だから必要だしさ」

「じゃあ私と長谷川さん、砂雪ちゃんで行こうか」

「分かりました」

「だーいじょうぶよ!この二人は立派な調査隊だから!」

「はい!」

「じゃあ私達は戻ろっかー」

鈴城さんが二人を促して私達に背を向けた。

「あ!本郷先輩!」

「なんだよ」

「鍵!」

「…あぁ」

私が差し出した鍵を、受け取りながら先輩は私の指に触れた。
冷たい指先だった。

咄嗟に手を引いた私に、先輩は眉間に皺を寄せた。

怒らせたかもしれない。
私の行動に先輩が心を動かすとも思えないけれど、もしかしたら傷つけたかもしれない。

それでもこれ以上の先輩との接触は心臓に悪い。

先輩が何を考えているのか分からない。

本郷先輩が校舎に入っていくのと同時に、窓からこっちを見ていた生徒達も次々に消えていく。

先輩がどれだけ求められているか、行動を起こすたびに常に窮屈な思いをしているかを思い知った。

叶うなら本郷 カナデの人生が欲しいと願う人間だって居るだろう。
だけど先輩の人生が全て恵まれていて幸せだとは思えなかった。

先輩の毎日の中には自由が無い。
笑顔の裏に隠した本当の先輩が私達には見えない。

先輩は、生徒会員のことは守ると言った。
それは自分があの生徒会室の中でだけは守られたいからなんじゃないかなって思った。

私達は本郷 カナデを神格化したりしない。
本当の先輩を知っても尚、そばに居る存在が本当は欲しいんじゃないのかな。

でもそれは全部、私のただの想像だ。

鈴城さんなら本当の先輩を知っているのかもしれない。
世界に一人でもそういう人が居なきゃだめだ。

あまりにも苦しすぎるから。
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