カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
意を決して下足箱の前まではやって来たけれど、あの人だかりの中に飛び込む勇気がなかなか出ない。

そりゃそうだ。
あんな中に飛び込んで行ったらそれだけで窒息死しちゃいそうだもん。

上靴から靴に履き替えて、ゆっくりと運動場の朝礼台まで歩いた。
人だかりは朝礼台から五十メートルも離れていないところにできている。

ワーワー騒がしい声も聞こえてくるけれど、たぶん大丈夫。
深呼吸をして、中学の頃を思い出した。
生徒会長をやっていた経験が役に立ちそうだった。

生徒集会ではもちろん何度も挨拶をしてきたし、ことあるイベントごとに大声を張り上げることもしょっちゅうだった。
声なら他の生徒よりも自信がある。

スーッとゆっくり深く息を吸う。
よし。
今日も調子良さそう!

「ほんごーーーかなでーーーッッッ!!!」

お腹の底から精一杯絞り出した声。

部活動に出てきた生徒達も、窓から人だかりを見物していた人達もピタッと動きを止めた。

「おー!」って声がして、振り返って見上げたら、生徒会室から先輩達が手を振っている。

「誰あれ?」

「ほら、生徒会に入った一年の」

「あーアレが?」

生徒達が私を物珍しそうに見ながら通り過ぎていく。
そんなことはお構い無しに私は二回、三回と本郷先輩を呼び続けた。

入り込む隙間も無いくらいかたまっていた人だかりがパッと割れて、そこにだけ花道ができたみたいに私に向かって歩いてくる人がいた。

本郷先輩だ。
良かった!ちゃんと届いた!

ホッとしたのも束の間。
RPGのパーティーみたいに本郷先輩にくっついてわらわらとみんながくっついて来ちゃった!

その先頭は、どう見てもあのギャルさんだ。
もー!またなのー!?
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