だって、そう決めたのは私
「ママは、優しい?」
「うん。優しいよ。でも……僕、酷いことを言っちゃったんだ」
「酷いこと?」
「……うん。ママはこっちに来なくていいよ……って」

 ギュッと唇を噛みしめる姿に、強い後悔が見えた。

「本当は、そう思ってないんだね」
「うん。でも……ママを傷つけた」

 傷つけた、か。私だったら、どう思ったろう。

 その言葉に傷つかないわけはない。でも、その奥にある息子の気持ちを探ろうとはしないか。いや、それは綺麗事だな。言われた状況や彼らの関係性もある。真っ直ぐに言葉が刺さってしまえば、彼の母親はきっと今も辛い思いをしているだろう。

「僕ね……仕事をしてるママが好きなんだ。とっても楽しそうで」
「そっかぁ、なるほど。だから、辞めて欲しくなかったのね」
「……うん」

 言葉が足らなかったのだろう。子供だからストレートに言い過ぎたのか。彼の本心がそうであろうとも、母親には届いていないのでは、と想像する。その言葉だけを受け止めてしまっただろう、と。ただでさえ、淋しい思いをさせている、という後ろめたさがあるだろうから。

「おばちゃんにもね、息子が一人いるの」
「そうなの?」
「うん。もう大人だけどね。それでも、今も可愛いよ。私にしてみたらいつまでも子どもなの。何でも夢を叶えさせてあげたいし、ちゃんと叱ってもあげたい」
「叱るの?」
「そうね。やってはいけないことをしたのなら、母親である私は叱らないといけない。息子が何を思ってそうしたのか、それもちゃんと聞かないといけないけれどね。悪くないって守ってあげることも大事だけれど、そうするにはきちんと見極めないといけないなって」

 カナタはそんなことはしないだろうが、もしそんなことが起きたら、誰よりも叱って、抱きしめてあげたいと思う。やってはいけないことは、やってはいけない。だけれども、そうしてしまった理由が彼にはあるはずだし、それを聞いて受け止めないと。突き離すだけでは、何にもならない。

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