政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「ずいぶんな言われようだな」
貴俊が湿気を孕んだ目で睨むと、野原は我に返って「す、すみません。口が過ぎました」と急いで謝った。
「いや、べつにかまわない。そのくらいで腹を立てたりしないから」
「いえ、つい調子に乗ってペラペラと。……えっと、それでは……副社長もお忙しいでしょうから、私はこれで失礼します」
急に居心地が悪くなったらしく、野原はそそくさと副社長室を出ていった。
執務椅子に戻り、ゆったりと背中を預けながら左手の薬指に光るリングを見つめる。
(まさか本当にあのときの約束を果たせるとは……)
貴俊の頭の中に二十数年前の出来事が蘇る。
明花と出会ったのは貴俊が十歳のときだった。
友達と遊んで帰る途中、どこからか幼い子どもの泣き声が聞こえてきた。
近くの家から聞こえたのだろうと思い帰り道を急いだが、なぜか無性に気になりひとりで引き返す。声を頼りに足を進めると、それは公園の片隅にある寂れた小屋からだと突き止めた。