政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
死んだ実の母からクリスマスにもらったぬいぐるみを捨てられてしまったと打ち明けたときには、また大粒の涙を零した。
どんなぬいぐるみだったのか尋ねると、彼女は地面に棒でクマの絵を上手に描いた。名前は〝みっちゃん〟だと言う。はちみつが好物だからそう名付けたと、涙で濡れた頬を綻ばせた。
『キミの名前は?』
『めいか。ゆきひらめいか。こう書くの』
そう言って、棒を使って今度は漢字で名前を書いた。
『漢字が書けるなんてすごいね。何歳?』
『ごさい。かんじはおとうさんにおしえてもらった』
五歳で自分の名前をフルネームで書けるとはと、衝撃を受けた。
そんな身の上話をしているうちに、彼女は平静を取り戻していく。あたりが暗くなってきたせいもあるのか、唐突に『かえる』と言いだした。
さすがに五歳の女の子とその場で別れるのは心配だったため、貴俊は家までついていくことにした。
『ここがおうち』
彼女が立ち止まる。