政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

彼の言葉をゆっくり繰り返す。
予想もしない意外な言葉だったため、理解するのに時間を要した。

瞬きもせずに彼を見つめ返す。そんなふうに言われたのは初めてだった。


「そうだ。生まれてくる環境は誰だって選べないんだから。そのことで明花が裁かれるのはおかしな話だ」


自分の行いが悪いからこういう目に遭うのだと信じていた。すべて自分のせいだと。
愛人の子どもとして生まれたのも、人から疎まれ、蔑まれるのも。
人間としての誇りを諦めて、息をひそめてひっそり生きていくのが正しい道だと思っていた。

でも、そうじゃない。

(私は私。お父さんでもお母さんでもないんだ)

初めて人格を認められた気がして、不意に気持ちが軽くなる。


「愛人の娘という身の上を恥じているのなら、そんな考えは今日限りでおしまいにしよう。明花には幸せになる権利がある」
「幸せになる権利……」


とっくに諦めていた――いや、そもそも考えてもいなかったものが今、目の前に――。
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