政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

手首を掴まれて引っ張られ、体勢を崩して彼の膝の上に横向きで座る。


「ただいまのキスがまだだ」
「そんな習慣はありませんが」


明花は大真面目に返すが……。


「それじゃ、たった今から」
「今か――んんっ」


有無を言わさず唇が重なった。
貴俊のキスはとても危険だ。ひとたび触れてしまうと離れ難くなる。

唇のふわふわした感触を確かめるように、互いに優しく食むのが心地いい。舌を交わらせる官能的なキスは体を疼かせるが、こうして唇を触れ合わせるだけのキスは心がほわんとあたたかくなる。

照美と佳乃の訪問で翳った気持ちは、貴俊の言葉でバランスを取り戻し、交わす口づけで完全に癒されていく。

怖いものはなにもない。
そう思えるから不思議だ。

思い違いか錯覚か、遠い昔にもこうして似たような体験をしたような気がした。

夢心地で陶酔していると、不意にキスが解けた。
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