政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

照美と佳乃の訪問から三日が経った。
貴俊との離婚をしつこく迫られるだろうと身構えていたが、今のところ何事もなく過ぎているのが少し不気味でもある。

(もしかしたら私がはっきり断ったから、諦めてくれたのかな。さすがに離婚を強要なんておかしいものね)

今まで明花は絶対に逆らわなかったため、反論されて正気を取り戻したのかもしれない。これまでの仕打ちを考えたら超がつくほど希望的観測だとわかっていても、そう思いたかった。


「ただいま戻りました」


その日、明花がお客様を内覧に案内してから片野不動産に戻ると、事務所内の雰囲気がどことなくいつもと違う。
幼い頃から空気を読まずには生きてこられなかったため、些細な変化に敏感になる。


「……明花さんっ」
「お、おかえり」


背を向けていた万智と隆子が焦った様子で振り返る。手元で紙をくしゃっと丸める音がした。

場の流れが歪むような、異空間に足を踏み入れてしまったような、居心地の悪さを感じて胸がざわりと波立つ。これまで何度も味わったことのある感覚だ。
< 192 / 281 >

この作品をシェア

pagetop