政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「……どうか、しましたか?」


ふたりと距離を保ったまま足を止めた。

なにが起こっているのか予想はつくが、気づかないふりをする。この期に及んで、勘違いであってほしいと願うのは、この場所を失いたくないから。

隆子と万智は一瞬だけ目を合わせ、すぐにさっと外した。


「あぁ、ううん、なんでもないのよ」


いたずらが見つかった子どものように、丸めた紙を隆子が後ろ手に隠す。〝まずい〟という表情で明花の予想が的中していると悟った。


「少し早いですが、先にお昼を食べてきますね」


たぶん、明花はここにはいないほうがいい。これまでの経験が明花にそう思わせる。
できるだけ笑顔で言ったが、彼女たちの顔は見られなかった。

事務所を出て、やみくもに歩きだす。朝作ったお弁当を持参していたが、持ち出す余裕はなかった。

今にも雨が降り出しそうな重い雲が垂れこめている。傘も持っていたが、事務所に置き去りだ。
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