政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「桜羽さんは私とのお見合いを望んでいらしたのに、父が勝手に明花を」
「私があなたとのお見合いを望んだ?」
「ええ。桜羽さんもご存じでしょうが、お恥ずかしい話、明花は父が愛人に産ませた子どもですし。本来であれば長女である私があなたに嫁ぐのが筋。ちょっとした行き違いがあって、あの日、父が明花をお見合いの席に連れて行ってしまったんです」


佳乃は愛人のくだりは口元に手をあてて声をひそめた。しかしその顔は喜々としている。
貴俊と偶然会えた喜びと、彼女にとっての真実を彼に話せた解放感のせいだろう。そしてなにより、彼の前で明花を貶める快感が彼女を饒舌にさせる。

貴俊からさらに冷然とした気配が漂ってきた。明花にはそれが痛いほどに伝わってくるのに、佳乃は全然気づかず、さらに続ける。


「桜羽さんは明花でよろしいんですか? 先日、明花にもお話ししたんです。桜羽ホールディングスのためにも身を引いたほうがいいって。だって愛人の子なんですもの、日本を代表する大企業の妻の名にふさわしくありませんから」


佳乃はここぞとばかりに自分の考えを披露した。

昔から憎んで止まない明花を周囲に人がいる場で罵って気持ちがいいのか、その顔は晴れ晴れとしている。普通の人間には考えられない大立ち回りは、ミュージカル女優さながらだ。
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