政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

明花たちが通り過ぎたあとにヒソヒソ声が聞こえてくるため気が気でない。

(貴俊さん素敵だから、不釣り合いって思われてるんじゃないかな。想像と違うとか。せめてシャキッと歩かないと。貴俊さんに見合う人になりたい)

威風堂々とした彼の隣で方々に会釈をしながら、エレベーターに乗り込んだ。
肩を上下させて大きく息を吐き出す。


「なに、どうした」
「思った以上に人がたくさんいらしたので、しっかりしないといけないなって緊張してしまって」


副社長の妻なら、きっとそれなりの人物を思い描いているだろう。


「そんな気負わなくていいから」


貴俊はクスッと笑いながら明花の背中をトントンと軽く叩いた。

取締役たちの部屋が並ぶフロアに到着すると、ひときわ風格のある男性が秘書らしき人物を従えて向かいから歩いてきた。貴俊の父、丈太郎である。

髪の毛こそ白髪交じりで年齢を感じさせるが、姿勢の良さやまとう空気が爽やかで若々しい。凛々しい顔立ちは貴俊が受け継いだ遺伝子だろう。年齢を重ねた貴俊の姿を容易に想像できる。
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