政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
勝手に女性をイメージしていたが、男性秘書のようだ。
明花は立ち上がり、その場で頭を下げた。
「初めまして、明花と申します。いつも夫がお世話になっております」
「ご丁寧にありがとうございます。副社長の秘書を担当しております糸井と申します。こうしてお目にかかれて光栄です」
「糸井は秘書たちを取り仕切る秘書室長なんだが、有能だから俺が手放せなくなってね」
「副社長がこの人間はだめ、あっちもだめとわがままをおっしゃるものですから、私が務めざるを得ないと申しますか」
冗談めかして言い合えるのは関係性が良好な証拠。つい先ほど会った三橋と同じである。
「わがままは余計だ」
「これは失礼いたしました。じつは以前――」
「糸井」
なにか言おうとした糸井を貴俊が静かな声で止める。
糸井はそこで言葉を飲み込み「奥様、どうぞおかけくださいませ」と話を変えた。
なにを言いかけたのか気になったが、言葉に甘えて腰を下ろす。