政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「はい、では失礼します」
糸井は貴俊と明花の前にコーヒーを置いた。
「〝とびきりうまいコーヒー〟でございます」
貴俊の言い回しを大真面目に真似る。
「お手並み拝見といこう」
貴俊は不敵な笑みを浮かべてカップに口をつけた。
「まあまあだな」
「相変わらず手厳しいですが、精進します」
糸井は胸に手をあて恭しく目線を下げて続ける。
「突然、副社長の奥様がお越しになったものですから、社内が騒然としていますよ」
エントランスでの情報が、もう秘書室にまで届いているのかと驚く。取締役など社内の要人に関するものは、側近である秘書たちに素早く伝えられるのかもしれない。