政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

明花もまったく知らなかった事実だ。


「自分でも驚いてるよ、糸井」
「とにかくお幸せそうでなによりです。では、副社長、私はそろそろ下がりますが、なにかございましたらお呼びくださいませ。奥様、コーヒーは冷めないうちにどうぞ。〝まあまあ〟だそうですから」
「はい、〝まあまあ〟のコーヒー、おいしくいただきます。ありがとうございました」


糸井は目元を軽く細め、入室したときのように恭しく一礼。トレーを小脇に抱え、ドアを開けたまま立ち止まった。


「言い忘れるところでした。これからエレベーターの点検作業があると、施設管理課より連絡が入っております。ご不便をおかけしますが、停止板の置かれたエレベーターはお乗りになりませんようお願いいたします」
「了解。ありがとう」


貴俊は軽く手を上げ、糸井を見送った。
ふたりきりになり、軽く息を吐く。無意識に体に力が入っていたらしい。


「緊張したって顔に書いてある」
「会社関係の方にお会いするのは初めてだったので。でも気さくな方なので話しやすかったです」
< 254 / 281 >

この作品をシェア

pagetop