あの一夜で身ごもりましたが、結婚はいたしません ~天才心臓外科医の猛攻愛~
最愛の人――瀬七side

 生まれたばかりの子供の泣き声で、はっきりと目を覚ました。

 手から滑り落ちそうになったスマホをしっかりと握り、時刻を確認する。

 夕方十六時を回っている。どうやら俺は、一時間も病室(ここ)で寝てしまったようだ。

 「あら、瀬七起きた? おはよう」

 聞き慣れた声に顔をあげると、ベッドにいる姉が柔らかく笑っていた。

 「……おはよう。気分はどうだ?」

 「大丈夫よ。お腹も全然痛くないし。瀬七があまりに気持ちよさそうに寝てるから、起こしそびれちゃった。ごめんね」

 「ああ、気にするな」

 俺は心底胸をなでおろす。紗彩の声が、最近の中で一番明るく聞こえるからだ。

 現在妊娠八か月に入った紗彩は、りょうど一週間前に切迫早産の疑いでここ――百合園産婦人科に救急車で運び込まれた。

 今は張り止めの点滴を打ちながらベッドで絶対安静を強いられている状態。

 このまま出産まで病院にいるという話で進んでいる。

 本来であれば夫である大夢が紗彩の傍にいてやるのが一番なのだが、彼は海外に出張に行っており不在。

 さらに俺たちの両親は遠方にいるので、おのずと弟である俺が仕事の合間を縫って見舞いをすることになっている。

 すると紗彩は、ふと何かを思い出したようにこちらを見た。

 「あ。そういえばね、今日メグちゃんがお仕事終わりにお見舞いに来てくれるみたいなの」
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