天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
込み上げる涙を堪えながら、途切れ切れでなんとか謝罪を口にする。
すると院長は私の顔を黙って見た後、その場を立ち去っていった。
ようやくひとりになり気が抜けたのか、堪えていた涙が次々と溢れてきた。
急いで近くにあったトイレに入り、声を殺して泣く。
もう、全部全部今日で忘れよう。
瀬七さんを好きな気持ちも、今までの思い出も、見出してしまった希望も全部。
初めから瀬七さんと私は釣り合っていなかった。
分かっていたのに、心を制御できなかった。
現実を受け止めた。初めから私に、瀬七さんを愛す資格はなかったということを……。
その日、瀬七さんから何通かメールが来たけれど、私はすべて無視をした。
瀬七さんはもしかしたら恵さんのことも、私のことも好きなのかもしれない。
でも、そんなことは許されない。
人の不幸の上に成り立つ幸せなんて、ない。
恵さんを苦しめて瀬七さんと愛を育むくらいなら、今まで通り母と栄斗と三人での平穏な日常を選ぶ。
自分の意思をはっきりと自覚し、私はその日の夜のうちに瀬七さんの連絡先を消去したのだった。