あの一夜で身ごもりましたが、結婚はいたしません ~天才心臓外科医の猛攻愛~

 瀬七さんとは、三人で遊んだ日以来ほとんど話していない。

 オペで一度顔を合わせることがあったけれど、必要最低限の話しかしなかったし、私がさせなかった。

 メッセージも、もしかしたら彼は送ってくれているかもしれないけれど、連絡拒否に設定しており見ることはない。

 栄斗には申し訳ないけれど、ここでちゃんとけじめをつけておいてよかったと思っている。

 瀬七さんも、恵さんだけを見て幸せになってくれれば……。

 また胸が激しく痛みそうになって、急いで頭から瀬七さんの存在を追い出す。

 傷が癒えるのはもっともっと先だ。

 「奥名さん、今日は出勤されていますか?」

 ふいに聞こえてきた高い声に、どきっと大きく心臓が跳ねる。

 振り返ると、看護師長と若い女性がナースステーションの前でなにやら話しているのが見えた。

 栗色の巻き髪をハーフアップにまとめ、医療事務員の制服を着ている美女がいる。

 どうして、恵さんがここに……?

 それに今、奥名さんって言わなかった?

 「奥名さーん! ちょっとこっちに来てくれるかしら」

 看護師長の呼び出しに、心臓が再び跳ね上がった。

 逃げる場所も隠れる場所もない……。

 意を決し、恵さんの前に歩み寄る。

 「初めまして」

 目が合ってすぐ、彼女は柔らかく微笑みかけてきた。

 「奥名ひかりさん、初めまして。私、今日あなたに、お伝えしたいことがあって参りました」
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