あの一夜で身ごもりましたが、結婚はいたしません ~天才心臓外科医の猛攻愛~
本当の父親


 いつもと変わらない水曜日の朝。

 八時少し前に、短い半そでのスクラブスーツを着てナースステーションに到着する。

 今日は久しぶりにオペが一件も入っておらず、フロア全体が静まり返っていた。

 「ひかり先輩、おはようございます!」

 「おはよぅ、星宮ちゃん……」

 大あくびをなんとかかみ殺しながら答えると、彼女はくすくすと楽し気に笑う。

 「昨日の緊急オペお疲れ様です! 今日はしっかり眠れるといいですね」

 「ん……ありがと。大丈夫だよ……」

 彼女の言う通り、昨日私はオンコール当番で、緊急オペが入り夜に呼び出しが入った。

 やはりオペ中は神経を張りつめているので、ある程度の睡眠時間を確保しないと疲れはとれない。

 寝不足の私のために、母は朝、元気が出るようにと甘いフレンチトーストを作ってくれた。

 栄斗も大きな大きなお口であっという間に全部平らげた。

 『ねぇ、まま! つぎ、せなおにいさんといつあそべる? あした? あさって?』

 『わからない。瀬七お兄さんはお医者さんで、忙しいからお休みもほとんどないし』

 『え~!』

 フレンチトーストを食べている最中の会話を思い出して、暗い気持ちになる。

 栄斗は瀬七さんにすっかり懐いていて、当然また遊んでもらえるものだと思っているようだ。

 そんな無邪気な彼に“もう瀬七さんとは会えない”なんて、言えなかった。
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