黒を以て白を制す


 「じゃあ、次の休みに式場を見に行こう」

 「え、次の休み?」

 「桑子の気が変わらないうちに決めておきたい」

 「そこはそんなに心配にしなくても。意見を変えたりしないよ?」

 「だとしても。絶対に手放したくないから」

 「熱烈だね」

 「家もかな。帰れば桑子が待ってると思ったら仕事にも気合いが入るしね」


 そこから伊那君はえらく熱心にどれだけ私が好きかを語り出した。聞いているこっちが照れるくらい。モジモジしている私を部長がニヤニヤしながら見てる。しかし、嬉しさでいっぱいで話を止めずに“うんうん”と頷く。すると背後からひょっこり社長が現れて「おめでとう」と半笑いで言った。


 「社長!」

 「あー、お前たち。なんだったら有給をやってもいいぞ。公休だけじゃ時間が足りんだろ?」

 「え、いいんですか?」

 「構わん構わん。ただ、その代わり、どうしても伊那に交渉してきて欲しい案件があるんだが……」

 「ドコです?」

 「ほら、あの煩い秘書が居る会社の……」

 「あぁ、あの厳しい秘書さんの。社長が苦手な」

 「そうだ。あそこと契約が結べたらうちの会社の利益が跳ね上がるんだが」

 「わかりました。やってみます」

 「おっ!いいのか!」


 頷いた伊那君に社長がキラキラと目を輝かせる。まるで純粋無垢な少年が子犬を初めて見たかのような顔だ。うぉっしゃー!これでわが社も安泰だ!と喜んでいるのが透けて見える。


 落ち込んでいたかと思ったら、社長にこんな顔をさせるとは。やっぱり恐るべし、伊那君。

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