お針子は王子の夢を見る



 その日、ルシーは母と一緒に工房に出かけた。
 仕上がった衣装を届けるためだ。母にとっては久しぶりの外出だ。

 薄青のビロードに金糸で刺繍を縫った。
 長めの上衣に同色のズボン。(すそ)と袖口にも刺繍をつけた。
 これもまた王子エルヴェのものだ。
 ルシーは心を込めて縫った。届かない人だ。だけど、心を届けることはできるような気がした。

 工房に着いたルシーは驚いた。
 いつかのような豪華な馬車が止まっていたからだ。
 またフィナールさんがおいでなのかしら。
 どきどきしながら母とともに店に入る。
 と、そこにはありえない人物がいた。

「エルヴェ様」
 思わずルシーはつぶやいた。
「また会えたね」
 エルヴェはにこやかに笑った。

「服が仕上がると聞いて、待ちきれずに来たんだ」
「恐れ多い……」
 思わずルシーは頭を下げた。

 マノンは静かに移動した。興味津々で覗いている同僚を工房に押し戻し、自分も工房に入ってドアを閉めた。

「そちらは?」
「私の母、シェルレーヌです」
 母は目をぱちくりさせて彼を見ている。

「母君、初めまして、エルヴェと申します」
 優雅にお辞儀をするが、シェルレーヌは首をかしげただけだった。

「母君にも聞いていただこう。私はルシーに城に来てもらいたいと思っている」
 ルシーは驚いて彼を見た。
「これからは俺の専属として服を作ってもらいたい」
 顔を赤くして、エルヴェは言う。
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