【シナリオ】カラダ(見た目)から始まる恋はアリですか!?
第三話 恋の天秤
〇大きな病院の待合室(夜)

  大きな病院の待合室に、モトキが無表情で一人座っている。その様子を見て、受付にいる事務員と通りかかった女性の看護師がひそひそ話をしている。

看護師「ねえねえ、あの人かっこよくない?」
事務員「ねー♡ 私もさっき受付の時ドキッとしちゃった」

  ひそひそ話をする二人の頬はほんのりと朱に染まっている。

事務員「でも女の人連れてたよ?」
看護師「さっき見た! 年離れてそうだしお姉さんとかじゃない?」

  二人がちらりとモトキを見る。
  モトキは相変わらず無表情でそこに座っている。

事務員「あー、確かに。 使いっ走りにされる弟くんかぁ……」
看護師・事務員「いいわ~♡」

  二人の周りに、見えない花が舞っている。

  ガラガラと診察室のドアが開く。モトキがはっと振り向く。
  サクラが診察室内に向かって会釈していた。

サクラ「ありがとうございました」

  モトキがサクラの元に駆け寄る。

モトキ「円居さん!」

  サクラは振り返り、はにかみながら後頭部を掻く。
  モトキはサクラに心配そうな視線を向ける。
  二人は待合室のソファに向かって歩く。

モトキ「歩けるんすね、無理してないっすか?」
サクラ「してない」

  サクラがソファにそっと座る。
  モトキはサクラの顔から視線をそらさずに、そっと彼女の隣に腰掛けた。

サクラ「コルセットもらったの。 着けたらかなりラクになったよ」

  腰のあたりを擦りながらサクラが言うと、モトキはほっと肩の力を抜いた。

モトキ「良かった……」

  サクラが頬を染め、もじもじとしている。サクラの視線は、モトキとは反対方向を向いている。

サクラ「あー、あのさ……」
モトキ「ん?」

  モトキはサクラの顔を覗き込む。
  サクラのどきまぎした顔に、モトキの頬もほんのりと赤く染まる。

サクラ「ありがとね。 病院まで連れてきてくれて」

  サクラがモトキの方を振り向く。頬を染めたままのサクラは、恥ずかしそうに微笑んでいた。

サクラ「……助かったよ」

  モトキは目を見開きながら頬を染める。自身の胸が「ドクドク」と高鳴っている。
  サクラは「エヘヘ」と笑いながら、また後頭部に手を当てた。

サクラ「恥ずかしながら私、 あんまり病院って好きじゃなくてさ」
サクラ「自分じゃ行こうってならないから──」

  サクラはモトキを見て言葉を止める。
  モトキは目を見開き頬を染めたまま、固まっていた。

サクラ「……おーい?」

  サクラ、モトキの顔の前で自身の手を上下させてみる。モトキは固まったまま。

サクラ「聞いてるか~?」

  サクラがモトキの肩をツンツンと人差し指でつつく。

モトキ「はっ!」

  モトキが我に返る。
  サクラは驚いて指を引っ込めた。

サクラ「どうしたの、大丈夫?」

  サクラがモトキの顔を覗き込む。
  モトキは頭をふるふると振って、サクラに向き直る。真顔になっている。

モトキ「大丈夫です、すみません」
モトキ「ちょっと明日の試験のこと考えてました」
サクラ「試験!?」
サクラ「じゃあなおさらごめんね。付き合わせちゃって──」

  サクラは肩を落とす。
  モトキは両手をあわあわと震わせる。しかしサクラには触れられない。

モトキ「あー、え、いえ……」

  サクラが急に立ち上がる。

サクラ「よし、早く帰ろう!」

  モトキは座ったまま、困った顔でサクラを見上げる。

モトキ「あー……、あの、円居さん?」
サクラ「ん?」

  サクラが振り向く。

モトキ「お会計……」
サクラ「あっ!」

  サクラの大声が腰の痛みに響く。サクラはすぐに座り直し、腰をさする。 

サクラ「いっ……」
モトキ「はぁ……」

  顔を歪めるサクラ。
  モトキは呆れ顔をしながら立ち上がる。サクラはモトキを見上げる。

モトキ「俺が払ってきます。円居さんは座っててくださいね」
サクラ「はい……」

  サクラが力なく答えると、モトキは会計に行ってしまう。
  サクラはため息をこぼす。
  会計に向かうモトキは、頬をほころばせていた。

〇タクシーの車内(夜)

  タクシーの後部座席にサクラとモトキが座っている。サクラは半分目をつぶり、うとうとしている。モトキはそんなサクラをちらりと見て、頬を綻ばせていた。

モトキ(円居サクラさん……不思議な人だ)

  眠ってしまったサクラの頭がモトキの肩に乗る。
  モトキは自分の胸に右手を当てた。「トクリ」と胸が鳴る。

モトキ(こんなにも胸が乱れることってあるんだな)

  モトキの頬がほんのり染まる。口元は綻んでいる。

モトキ(そもそも憧れの人が俺のホテルで働いてたって──)
モトキ(そんなん奇跡だろ……)

  モトキは目を細め「ほう」と息をつく。その口元は緩んだまま。

〇銭湯の入り口(夜) ※回想

  番台におばあちゃんが立っている。白いジャージを着たモトキが入口の戸からやってくる。その手には、男湯の暖簾が握られている。

モトキ「ばーちゃん、男湯全員上がったよ」
モトキ「掃除入っていいか?」

  おばあちゃんはモトキの方を向き、にこやかに言う。

おばあちゃん「そーけぇ、いつもありがとねぇ」
モトキ「うん。……女湯は?」
おばあちゃん「まーだ1人若い子入ってるんだが、彼女が出たら終わりだな」
モトキ「分かった」

  モトキは番台に背を向け、男湯の方へ向かう。 

おばあちゃん「覗くんじゃねーよ?」

  おばあちゃんはからかうようにケラケラと笑う。
  モトキは顔を真っ赤にしながら振り向き、鋭い視線をおばあちゃんに向ける。

モトキ「んなことするわけねーだろっ!」

〇銭湯・男湯の中(夜) ※回想続き

  モトキが真剣な顔で、デッキブラシでタイルの床を掃除している。

モトキ・モノローグ『高校に入る頃、ばーちゃんの銭湯を手伝い始めた』

  女湯の方から音が聞こえてきて、モトキは一度手を止め耳を澄ます。

モトキ(また歌ってる)

  聞こえてきた歌声に、モトキは笑みを漏らす。

モトキ・モノローグ『いつも閉店ギリギリに来る、鼻歌の下手なおねーさん』

モトキ(相変わらず音痴だなー)

  笑みを漏らしながらも、モトキは止めていた手を動かし始める。

モトキ・モノローグ『きっと仕事が忙しいんだろうとか、風呂なしの部屋に住んでる貧乏な人なんだろうとか』
モトキ・モノローグ『ぶっちゃけ閉店間際に来るとか、掃除できねーし迷惑だなって思ってた』

モトキ(ま、変な歌は面白いけどな~)

モトキ・モノローグ『けど──』

〇銭湯の入り口(夜) ※回想続き

  モトキがおばあちゃんのいる番台の方へ戻って来る。

モトキ「ばーちゃん 男湯あと流すだ──」

  モトキは言いかけた口を閉ざす。
  モトキの視線の先では、おばあちゃんとサクラが話してる。二人は何やら神妙な顔つきをしている。

おばあちゃん「そげか、大変やったんやねぇ」

  おばあちゃんはうんうんと頷きながら言う。

サクラ「うん、恋とかもういいかなって」

  サクラは伏せていた顔を上げ、おばあちゃんに笑みを向ける。

サクラ「おばあちゃんのお風呂屋さん来るだけで、嫌なことなんて忘れられるし」

おばあちゃん「若いのに諦めるんかぁ?」
 
サクラ「あははっ! 恋だけじゃないからね~、人生は」

  破顔したサクラ。
  会話する二人を呆然と見つめるモトキは、胸の前できゅっと手を握った。
  サクラは伏し目がちに笑みを浮かべる。

サクラ「でもありがとう、おばあちゃん」
サクラ「わざわざ私が来るの待っててくれて、私が来たら店じまいってしてくれてるんでしょ?」
おばあちゃん「サクラちゃんはうちのお得意様だからねぇ」

  おばあちゃんが破顔する。

おばあちゃん「若い女の子はあんまり来てくれんから嬉しいんだよ。ばーちゃんも若返った気分になる」
おばあちゃん「WIN‐WINじゃ!」

  おばあちゃんがサクラには向けてピースサインをする。サクラもつられるように笑顔になる。

サクラ「なら良かった! じゃあね、おばあちゃんも身体気を付けて~」

  サクラ、銭湯を出ていく。
  モトキはそこに立ち尽くしたまま、サクラの出ていった銭湯の入口をぼうっと眺めている。

モトキ・モノローグ『『恋だけじゃないからね~、人生は』』
モトキ・モノローグ『そう話すあの人の悲しそうな笑顔が、強烈に胸から離れなかった』

  おばあちゃん、モトキがいることに気付いて、手を挙げる。

おばあちゃん「お、終わったんかいモトキ」
モトキ「あ、うん」
おばあちゃん「じゃあ今日はもう帰るべぇ。女湯掃除はまた明日な」
モトキ「うん……」

  モトキはもう一度銭湯の入口を見る。
  おばあちゃんが、モトキを不思議そうな顔で見ていた。

〇タクシーの車内 ※回想終了

  サクラがモトキの肩にもたれて、眠っている。モトキはサクラの寝顔を愛しそうに眺めている。

モトキ・モノローグ『先日、銭湯に来てくれた時は緊張しすぎて変な感じになっちゃったけど』
モトキ・モノローグ『でもそれで彼女の抱える問題(身体の見た目)を知って、』

  モトキが運転手に声を掛ける。

モトキ「あ、すみませんそこのマンションです」

モトキ・モノローグ『気づいたらこの人を助けたいって身体が勝手に動いてた。だから──』

  タクシーが止まる。モトキがサクラの身体を揺り動かす。
  顔は無表情に戻っているが、もぞもぞとしてから飛び起きたサクラにフフッと笑みが漏れる。

モトキ「着きましたよ、円居さん」

〇マンションの廊下(夜)

  サクラが二階に続く階段を登っている。モトキがその後ろを追いかけるように登っている。モトキは嬉しそうに顔を綻ばせている。

モトキ・モノローグ『――きっと俺は、この人を好きなんだと思う』

  サクラが振り返り、じっとモトキの顔を見つめる。
   モトキはすぐに平静を装い、無表情になる。

サクラ「……」

  サクラの顔がモトキに近づく。モトキは動かずに、サクラの顔をじっと見続ける。

モトキ「……なんすか?」

  サクラは前かがみになっていた身体を起こし、歩き出す。二人は階段を登りきり、廊下を歩き始める。
  サクラが顔だけ振り返る。

サクラ「ねぇ、私が一人で階段登るの見てたよね?」
モトキ「はい」
サクラ「じゃあさ、 私が一人でも平気って分かったよね?」
モトキ「はい」

  全く表情を変えないモトキに、サクラは呆れ顔になり、ため息をこぼす。

サクラ「……じゃあ、なんでついてくるの?」
モトキ「はい?」
サクラ「……」

  サクラは目をパチクリさせている。
  立ち止まったところはサクラの家のドアの前だった。

サクラ「君バカなの? 日本語分かる?」
モトキ「はい、一応日本人なんで」
モトキ「あ、アメリカとフランスに留学してたんで英語とフランス語も話せます。中国語は勉強中っすね」

  サクラはイライラして後頭部を掻く。

サクラ「いや、そういうことじゃなくてね?」
サクラ「はぁー、何で分かんないかな」
サクラ「私はもう平気だから君は自分の家に帰りなってこと!」
モトキ「あー、そういう」

  モトキの頭の上に電球が浮かぶ。

サクラ「明日試験なんでしょ? 勉強は学生の本分だよ、ほら──」
モトキ「帰ってますよ、家」

  モトキに言葉を遮られ、きょとんとするサクラ。

サクラ「へ?」
モトキ「だって俺の家──」

  モトキはサクラの隣の部屋のドアの前に立っている。ポケットから鍵を取り出す。

モトキ「ここっすから」
サクラ「はぁっ!?」

  サクラが驚く間に、モトキは鍵を扉の鍵穴に差し込む。ガチャリと音がして、モトキはドアノブを握りドアを開く。

サクラ(わ、本当に鍵開いたし!)

モトキ「じゃあ、おやすみなさい 。円居さん」

  驚いたまま動けなくなったサクラ。
  モトキはサクラに笑みを向け、部屋の中へ入ってゆく。

サクラ「あ、うん、おやすみなさい……」

  サクラが固まったまま、ガチャリと隣の部屋の扉が閉まる。

サクラ「じゃなくて~~~っ!」

  サクラは閉まった扉に向かって叫ぶ。

サクラ「あイテ……(また大声出して腰に響いた)」

  サクラは腰をさすりながら、トボトボと自分の部屋の中へ入っていく。

〇ホテルの事務室・客室部(昼)

  仕事鬼畜モードのサクラ。真顔のまま、パソコンをカタカタと叩き、ものすごいスピードで事務作業を終わらせてゆく。
  部長とコノミが驚きながら、サクラの仕事の様子を見ている。

サクラ「部長、 来月のパートさんのシフトなんですけど――」

  サクラが部長の方を振り向き、声を掛ける。
  部長、汗を飛ばしながらサクラの声に答える。

部長「それ提出期限来週だからね、まだ組まなくていいからね」
サクラ「あ、そうでした」

  サクラがデスクに向き直り、またパソコンを打ち始める。

サクラ「仕方ない。 こっちの稼働率修正するか……」

  事務室の隅で、また部長とコノミがこそこそと話し始める。

コノミ「部長、円居さん――」
部長「ああ、またアレだ」

  二人が困り顔でサクラの方を向く。
  サクラはパソコンに向かい、「うーん」と唸るもすぐにカタカタとパソコンを打ち始める。
  二人が隅の方に向き直る。 

部長「昨日のアレを考慮すると、」
コノミ「おそらく円居さんのアレの原因は──」

部長・コノミ「恋の悩み!」

  二人は急に顔を輝かせる。
  二人の周りには、見えない花が舞っている。

部長「よし、円居に探り入れてこいっ!」

  部長が軽くコノミの肩を叩く。コノミは部長に向かって敬礼を切る。

コノミ「了解しました、部長っ!」

〇ホテルの社員食堂(昼)

  食堂のテーブルに、サクラとコノミが向かい合って座っている。
  二人の前には食べ終わった定食の皿が置いてあり、サクラはお冷を飲んでいる。

コノミ「ねぇねぇ、円居さんって次期支配人とどんな関係なんですか!?」

  コノミは目を輝かせている。サクラは思わず飲んでいた水を噴き出し、むせてしまう。

サクラ「ゴホッ、ゴホ!」

  慌ててコップを置き、胸を叩くサクラ。

コノミ(あれ、直球すぎちゃったかな?)
コノミ(でもこれだけ動揺するってことは――)

  コノミはサクラに、近くにあったテーブル拭きを手渡す。サクラは涙目でそれを受け取り、立ち上がってこぼした水を拭いている。

コノミ「――恋してます?」
サクラ「してませんっ!」

  サクラの大声に、コノミは驚き目をぱちくりさせる。
  食堂中の視線が一斉にサクラに集まり、サクラはキョロキョロしながらおずおずと椅子に座り直した。
  食堂の様子が元に戻る。
  コノミは視線を気にして声を潜めた。

コノミ「でも、それだけ強く否定するって逆に怪しいですよ?」
サクラ「あのねぇ」

  サクラは目を伏せため息をこぼす。

サクラ「彼とはなんともないから。前に少し助けてもらっただけ」
サクラ「それに私は恋なんてしない。理由は寺田さんも知ってるよね?」

  ちらりとコノミを見るサクラ。

コノミ「あー、 クソみたいな元カレの話ですよね」
サクラ「はぁー」

  コノミ、サクラの大きなため息にぴくりと肩を揺らす。

サクラ「そうだよ」
サクラ「恋なんてするより仕事してた方が楽しい」
サクラ「ストレス解消する術も知ってるし──」

  サクラは目を伏せたまま言葉を続ける。

サクラ「現状満足。わざわざ恋して傷付こうなんて思わないよ」

  きょとんとするコノミ。頭の上に?が浮かんでいる。

コノミ「なんで傷付くこと前提なんですか?」

  サクラは顔を上げる。

サクラ「え?」

  コノミは解説するように人差し指を立て、言葉を紡ぐ。

コノミ「そりゃ恋って傷付くこともあります。でも楽しいことも嬉しいことも──」
コノミ「恋することでしか味わえないドキドキとかワクワクだってあるじゃないですか」

  サクラは再び顔を伏せてしまう。

サクラ「……そうかもね」
サクラ(もう忘れちゃったよ。恋のワクワクとか、ドキドキとか)

  サクラは顔を歪ませる。
  コノミはサクラに構わずぱっと明るい顔になる。

コノミ「それにお相手は御曹司ですよ!?」
コノミ「お付き合いしてもし結婚なんてなったら──」

  急にコノミの背景がキラキラになる。コノミの目もキラキラに輝いている。

コノミ「玉の輿ですよ~~~っ!」

  背景が食堂に戻るが、コノミの周りには見えないお札のシャワーが降っている。コノミの目は小銭になっている。
 
コノミ(お金、お金、 使っても使っても消えないお金〜♡)

  サクラは呆れながら、額に汗を浮かべため息をこぼす。

サクラ「面白がってるでしょ?」

  コノミが元の顔に戻り、エヘヘと笑顔を浮かべる。

コノミ「あ、バレました?」

  コノミの顔が自然な笑みになる。

コノミ「でも半分は嬉しかったんです」
サクラ「え?」
コノミ「円居さんが、過去の恋を乗り越えられたらいいなって」

  サクラがはっとした顔になる。

サクラ「……」
コノミ「それで新しい恋に前向きになって──」

  コノミの顔が、いたずらっ子の笑顔に戻る。

コノミ「次期支配人と円居さんが結ばれた暁には、高級焼肉奢ってもらい放題だなって!」

  サクラはため息をこぼす。

サクラ「やっぱり」

〇サクラの部屋(夜)

  帰宅したサクラが、スーツ姿のままベッドにダイブする。仰向けに、大の字になる。

サクラ「はぁ~~~っ!」

  天井を見つめたまま、サクラはぼうっとしている。


〇ホテルの社員食堂(昼) ※回想

コノミ「何で傷付くこと前提なんですか?」

〇サクラの部屋(夜) ※回想終了

  サクラはまだ天井を見つめている。

サクラ「何でだろうね……」

サクラ・モノローグ『──本当は分かってる』

〇大学の中庭(昼) ※回想

  大学生のサクラが、元カレと向き合っている。元カレは頬を染め、頭を下げている。サクラはキョトンとしながらも、頬を染めている。

元カレ「好きです! 付き合ってください!」

サクラ・モノローグ『恋のドキドキも、ワクワクも──』

〇遊園地(昼) ※回想続き

  サクラが元カレと手をつなぎ、遊園地の中を楽しそうに歩いている。元カレはどこかを指を差している。

元カレ「次はアレ乗ろーぜ!」

サクラ・モノローグ『楽しかったことも、嬉しかったことも──』

〇観覧車のゴンドラ(夕) ※回想続き

  観覧車のゴンドラ内、サクラと元カレが隣同士に座っている。ゴンドラは頂上付近にいる。

元カレ「な、キス──していい?」

  サクラと元カレの顔が近づく。二人は目を閉じて、幸せに浸っている。

サクラ・モノローグ『全部忘れてしまうくらい──』

〇真っ黒な背景 ※回想続き
元カレ・セリフのみ「だってその痕……キモチワルイし」
元カレ・セリフのみ「お前のカラダじゃ 勃たねーわ、俺」

サクラ・モノローグ『──ボロボロに傷付いたんだよ』

〇サクラの部屋(夜) ※回想終了

  サクラはベッドの上で仰向けのまま、涙を流している。涙が目尻から流れ出し、耳の方まで伝っている。
  サクラは寝返りを打つように横向きになると、身体を丸めた。

サクラ(恋のワクワクとかドキドキとかと、傷付いた後のダメージを天秤にかけたら)
サクラ(恋しない方がいいって結論に辿り着いたんだよね)

  目をつぶり、ベッドの上で小さく縮こまるサクラ。

サクラ「……私、間違ってるのかな」

  インターホンが鳴り、サクラはピクリと身体を震わせる。

サクラ「嘘、今──!?」

〇サクラの部屋の玄関(夜)

  サクラは目元を袖口で拭いながら、ガチャリと玄関の扉を開ける。

サクラ「はーい」

  開けたドアの先に、白いジャージ姿のモトキが立っている。その手には、紙袋が握られている。

サクラ「げっ!」

  思わず身を引くサクラ。
  モトキは玄関の中に入り、ため息を零す。

モトキ「『げっ』て何なんすか。酷いですね」
サクラ「ごめん、つい」
モトキ「つーか玄関開ける時は来客者確認するとか気を付けてくださいよ。女性の一人暮らしなんすから──」

  モトキは言いながら顔を上げる。サクラの顔を見てはっとする。

モトキ「……泣いてました?」

  サクラの目元は真っ赤に腫れ、潤んでいる。鼻の先まで紅潮していた。

サクラ「は? 別に泣いてなんて──」

  言いかけたサクラを、モトキが突然抱きしめる。
  優しくサクラの背中を両腕で包むモトキ。
  サクラは驚いた顔をする。

サクラ(嘘、何で私──)

  モトキの腕の中で、サクラは泣きそうになり下唇を噛んで堪えている。

サクラ(コイツに抱きしめられて──)

  サクラ、涙が溢れてしまう。

サクラ「うぅ……」

  何とか手を顔の前に持ってきて、彼のジャージとほの少しの距離を取る。

サクラ(こんなに安心してるの──?)

  モトキの腕の力が強まり、サクラはモトキの胸に顔を埋める形になる。

モトキ「我慢しないで、泣いていいっすよ」

  サクラは顔の前にあった両手でモトキのジャージをきゅっと掴んだ。

サクラ「うぅ……ひぇ……」

  サクラは号泣してしまう。
  モトキはサクラを抱きしめ続ける。

サクラ「うわーん……」

サクラ・モノローグ『なんだかちょっと、ドキドキして──』
サクラ・モノローグ『──心が軽くなった』
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