清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ずっと約束してたデートだろ? ホワイトデーもバタバタしてできなかったし」

 すると途端に加賀見は、いつものにんまりとした腹黒王子の顔つきになる。

「ちゃんとカップルシート、取っといたから」

 耳元で聞こえる加賀見のやけに甘い声に、穂乃莉は「きゃ」と飛び跳ねてしまう。


 やっぱり加賀見には、何でもお見通しなのか。

 穂乃莉は真っ赤になった頬を両手で押さえながら、会場の中へと入って行った。


 会場の中は想像していたよりも広く、ドーム型の天井を見上げるように、いくつも座席が用意されている。

 床は全面人工芝が敷かれており、歩くとシャリシャリとして心地が良い。

 ウッドチェアや銀マットの座席ゾーンをぬけた奥に、穂乃莉がずっと憧れていた雲の形をした大きなクッションチェアのカップルシートがあった。


「わぁ」

 穂乃莉は思わず声を上げると、ビーズクッションでできたシートに駆け寄った。

 手で少し押してみるとビーズどうしがキュッキュと軋み、中で動いて固まるのがわかる。

「ねぇこれ、よく聞く“人をダメにするクッション”っていうのじゃない?」

 穂乃莉が瞳を輝かせながら振り返ると、加賀見が楽しそうに肩を揺らしていた。
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