清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見の言ったように、穂乃莉に残されたトラベルでの時間は長くない。

 みんなで考えたこの企画を形にしたいと思ったら、心の中の小さな嫉妬や(ひが)みで足を止めてなんていられないのだ。

 穂乃莉はぐっと両手を握って力を入れると、まるでバックに炎を背負うかのように、意気揚々とフロアに戻って行った。


「穂乃莉ちゃん、やけに気合入ってるね」

 玲子が花音にそっと耳打ちする。

「そうなんですよぉ。加賀見さんとの打ち合わせが終わってから、ずっとあんな感じですぅ。いろいろ話聞きたいのにぃ」

 花音は両手をぷるぷる振ると地団太を踏んだ。

「穂乃莉さんの邪魔しちゃ悪いですよ。僕らは帰りましょう?」

「まぁ、そうだねー。卓、あんたご飯食べてくでしょ?」

「玲子さんの奢りなら」

「馬鹿言ってんじゃないわよ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ声を聞きながら、花音は穂乃莉の横顔を見て小さくほほ笑む。

 その顔つきは、納会の日に自分の恋心を初めて知った少女のような表情とはまるで見違えるように、凛として綺麗だった。
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