左遷された王女は青銀の風に守られる ~地属性魔法で悪人退治を楽しんでいたら大変なことになりました~
馬車で王都に入ると、市民が道の両脇に詰めかけていた。
歓声に囲まれ、馬車は進む。
王女が市民を救った噂は王都にまで届いていたのだ。
「殿下は英雄ですよ!」
興奮したキアーラが言う。
「そう」
興味なさそうに、フェデリーカは答えた。
「戻って来たのに、うれしくなさそうですね」
「そう?」
実際、憂鬱だ。自分を嫌う父に会うのはうれしくない。
それに。
ため息をつくフェデリーカの頭にエリゼオの笑顔が浮かぶ。
「エリゼオ様に会えなくなるからですか?」
「違うから!」
「隠さなくてもいいですのに」
キアーラはにやにやと笑った。
王宮に戻ったフェデリーカは部屋にひきこもった。暇すぎて、刺繍に挑戦してしまった。
思う通りには縫えなかった。斜めになったりよれたりしてうまく模様にならないし、なんども指を刺した。
「いた!」
また刺してしまった。指先に赤く丸い珠ができた。ハンカチで傷口を押さえた。
刺繍をしているのもまたハンカチだった。その隅に歪んだ「E」の文字が青く描かれようとしている。
「なにやってんだろ」
自己嫌悪とともにため息を漏らし、刺繍のような何かをテーブルに置いた。
令嬢たちからはお茶会の誘いがひっきりなしに届いた。
全部断った。
父に冷遇され、将来の義妹をいびると噂があったときにはまったく誘いはなかった。
会いに来るべき人も、来ない。
フェデリーカは窓の外を眺める。
青い空と緑の茂る庭が見えるだけだ。胸をときめかせるものはなにもない。