レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
その日の晩のこと。
自害し損ねたノツィーリアがベッドに倒れ込んだままぼんやりとしていると、扉を叩く音が聞こえてきた。
普段メイドたちがしてくるような、悪意に満ちた乱暴な叩きかたではない。不審に思いつつ起き上がり、とぼとぼと扉の前まで歩いていき応答する。
現れたのは老執事だった。幼い頃、母と暮らしていた離宮の執事長。
久しぶりに見る執事は白髪頭になっていて、記憶の中の姿よりずっと年老いていた。
母を知る召し使いとの十七年ぶりの再会。懐かしさに涙が込み上げてくる。しかし感激しているのはノツィーリアの方だけで、相手は何の感慨も抱いていないようだった。
まばたきを繰り返しつつ、訪問者を部屋の中へと通す。老執事はひとりでやって来たわけではなく、続けて中年の料理人がワゴンを押しながら入ってきた。その上には丸い銀の蓋の被せられた料理が置かれている。コック帽の長さからして料理長であろう人が、ノツィーリアひとりのために、わざわざ食事を運んできたらしい。
その手厚さに、父王が今回の【事業】にどれだけ執念を燃やしているかがうかがい知れる。ノツィーリアの心に、たちまち黒煙めいた暗雲が垂れ込めはじめた。
ひんやりとした空気のただよう部屋の中を老執事が足早に歩き回り、いくつかある燭台に次々と火を灯していく。明るくなった部屋の壁際にノツィーリアが佇んでいると、ちらと視線を向けてきた執事は円卓に歩み寄り、椅子を引いた。促されるままにその前に立ち、おそるおそる腰を下ろす。丁寧な扱いは十数年ぶりで、少し気後れしてしまう。
昼のうちにこの部屋へと戻ってきてからずっと火の消えっぱなしだった暖炉に、老執事が火を入れる。
一方で、料理長がノツィーリアの目の前に料理を置き、うやうやしい手付きで銀の蓋を開く。用意されていた料理は、美しく透き通った琥珀色のスープだった。
芳醇な香りが立ちのぼる。その香りをかいだ瞬間、空っぽの腹が久しぶりに空腹感を思い出した。
自害し損ねたノツィーリアがベッドに倒れ込んだままぼんやりとしていると、扉を叩く音が聞こえてきた。
普段メイドたちがしてくるような、悪意に満ちた乱暴な叩きかたではない。不審に思いつつ起き上がり、とぼとぼと扉の前まで歩いていき応答する。
現れたのは老執事だった。幼い頃、母と暮らしていた離宮の執事長。
久しぶりに見る執事は白髪頭になっていて、記憶の中の姿よりずっと年老いていた。
母を知る召し使いとの十七年ぶりの再会。懐かしさに涙が込み上げてくる。しかし感激しているのはノツィーリアの方だけで、相手は何の感慨も抱いていないようだった。
まばたきを繰り返しつつ、訪問者を部屋の中へと通す。老執事はひとりでやって来たわけではなく、続けて中年の料理人がワゴンを押しながら入ってきた。その上には丸い銀の蓋の被せられた料理が置かれている。コック帽の長さからして料理長であろう人が、ノツィーリアひとりのために、わざわざ食事を運んできたらしい。
その手厚さに、父王が今回の【事業】にどれだけ執念を燃やしているかがうかがい知れる。ノツィーリアの心に、たちまち黒煙めいた暗雲が垂れ込めはじめた。
ひんやりとした空気のただよう部屋の中を老執事が足早に歩き回り、いくつかある燭台に次々と火を灯していく。明るくなった部屋の壁際にノツィーリアが佇んでいると、ちらと視線を向けてきた執事は円卓に歩み寄り、椅子を引いた。促されるままにその前に立ち、おそるおそる腰を下ろす。丁寧な扱いは十数年ぶりで、少し気後れしてしまう。
昼のうちにこの部屋へと戻ってきてからずっと火の消えっぱなしだった暖炉に、老執事が火を入れる。
一方で、料理長がノツィーリアの目の前に料理を置き、うやうやしい手付きで銀の蓋を開く。用意されていた料理は、美しく透き通った琥珀色のスープだった。
芳醇な香りが立ちのぼる。その香りをかいだ瞬間、空っぽの腹が久しぶりに空腹感を思い出した。