レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 ノツィーリアはまばたきを繰りかえして涙を抑えると、皇帝の温かなまなざしに視線を返して微笑んでみせた。

「私、死ぬことまで考えていたのに、今はこうして優しくしてもらえて混乱してしまって……すみません」

 姿勢を正して頭を下げたあと、ずっと着たままだったガウンを脱いだ。

「ルジェレクス皇帝陛下。ガウンを着せていただき本当にありがとうございました。あなたのぬくもりに励まされました」

 手に持ったガウンを畳もうとしながら正面を見ると、真っ赤に染まった顔がそこにはあった。
 ノツィーリアとは目が合わず、少し下に傾いた視線がそこで止まっている。

「あの……、ルジェレクス皇帝陛下、どうされました?」

 首をかしげた瞬間、音が聞こえてきそうなくらい素早く顔を背けられた。
 不可解な態度に不安を覚えはじめた矢先、耳まで赤くした皇帝が小声でつぶやいた。

「その寝衣は、目のやり場に困るな……」
「……!」

 ずっと体が火照っているせいで薄着であることをノツィーリアはすっかり忘れていたのだった。お務めに臨む際、男性を誘惑すべく着せられた、透けた生地でできた寝衣。
 ノツィーリアは自身がはしたない格好をしていることを思いだすと、慌てて自分を抱きしめるようにして胸を隠し、皇帝に背を向けてシーツの上にうずくまった。

「お見苦しいものをお見せしてしまい大変申し訳ごさいません!」
「見苦しいものか! 見ていて良いならばいくらでも……」
「!?」

 信じがたい言葉に目を見開いて振りむけば、口を押さえたルジェレクス皇帝が素早く顔を逸らす。

「すまぬ、売りに出される覚悟を決めたそなたに抱くべき感情ではなかった。非礼を詫びよう」
「いえ、先に非礼を働いたのはこちらです。本当に申し訳ございません」

 すぐさま手を下ろした皇帝が、なにかを言おうとして口をつぐむ。これ以上詫びの応酬を続けてもきりがないと判断したのだろう。
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