レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 素早くガウンを口元まで引き上げて、顔を隠してそっぽを向く。
 そんなことをしたところで熱を帯びた体はごまかしようもない。

「具合が悪いというわけではないのですが……、あの、これは、その……」
「言いづらいことか? 男の医官に言いたくないようであれば、女官を呼ぼう」
「いえ! どなた様のお手をわずらわせるほどのことではございません!」

 弾かれるように振り向いたノツィーリアは、持ち上げたガウンから目だけを出して皇帝と視線を合わせた。決して体調不良ではないと理解してもらうべく、自身の状態について正直に告白する。

「私、実は……先程のお務め前に、媚薬入りのお茶を飲まされてしまい、その……」
「媚薬、だと……!?」

 心配そうな面持ちをしていた皇帝が、途端に愕然とした表情に変わる。
 しかしすぐに悔しげな面持ちになった――まるで、怒りを表現できないノツィーリアの代わりに怒ってくれるかのように。

「そうか……。そうよな、その名目で設けられた場だからこそ、そのような無体を働かれてしまったのだな」

 切なげに呟いた皇帝が、手を差し伸べてくる。ノツィーリアよりもずっと大きな手のひらは、火照る肌に触れる直前で止まった。

「……。触っても?」
「は、はい、……っ」

 銀髪の内側に差し込まれた手が、頬に触れてくる。
 媚薬というものは、人の体温までをも敏感に拾ってしまう効果があるのだろうか――。熱い手のひらに包まれただけで、ノツィーリアはびくっと肩を跳ねさせてしまった。

「気づいてやれなくてすまぬ。ずっと、苦しんでいたのだな」
「ご心配いただきありがとうございます。効果が切れるまで耐えようと思っていたのですが、体の熱さばかりはどうしようもなく……」
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