レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「すまぬ、媚薬にかこつけてそなたを抱こうなどと……」
「いえ! あの場からお救いいただけたことだけでも身に余る待遇ですのに、さらにお助けいただくなど恐れ多いことで……、んっ……!?」

 なんの前触れもなく、一気に薬効が増幅した。
 救いの手が今まさに眼前に差しだされているからだろうか、それとも長時間我慢し続けてきたせいだろうか――。これまではどうにかやりすごせてきたにもかかわらず、今は無表情を保てないほどに心と体を支配する。

(急にこんなに苦しくなるなんて……!)

 体が刺激を求めてうずきだし、涙が浮かんでくる。にわかに速くなった鼓動に息苦しくなり、肩で息をせずにはいられない。ノツィーリアは自分を強く抱きしめると、二の腕に爪を立ててその痛みで媚薬の効果をごまかそうとした。
 力んだ手が強引にはぎとられる。汗ばむ手が、それ以上に熱い両手に包み込まれる。

「ノツィーリア姫、どうか余に身をゆだねてはくれまいか。苦しむそなたを見捨てるなぞ余にはできぬ」
「本当に……ご迷惑ではないのですか?」
「もちろんだ」

 熱を欲する強烈な衝動が、優しい声にうながされて思考を侵食していく。

 本当に、この偉大なる皇帝にそこまでしていただいてもいいのだろうか――身をゆだねろと言ってくださった――今すぐに助けてほしい――頭の中がぐちゃぐちゃになり、涙があふれそうになる。
 ノツィーリアは息を切らしながら、必死に思いを言葉にした。
< 56 / 66 >

この作品をシェア

pagetop