現れたのは聖竜様と予想外の溺愛でした
莉亜がこの塔に押し込められてから確かに時は過ぎている。聖女のお披露目パーティまで期日は迫っていた。
無論、司祭は壁画修復の進捗などを確かめに来たわけではない。
聖女を騙った罪人の成れの果てを晒してやろうと乗り込んできたのだ。
壁画に込められた呪いで、あの日の夜明けを待たずして莉亜は事切れる目論見だった。
しかしどうだ。
莉亜は生きている。
あろうことか、壁画は大部分が修復され、往年の輝きに満ちている。
そして何より──彼女ひとりを押し込めたはずの牢に、見知らぬ男がいるのだ。
司祭は目を見開き、後ろに控えていた衛兵を小突いた。
「なぜ部外者がここにいる? 貴様、見張りを怠ったな!?」
「な、何をおっしゃいますか、司祭殿! 壁画の呪いですぐにくたばるゆえ塔には近寄るなと申されたではないですか!」
「ええい黙れ! ワシに逆らうか!」
突如責任転嫁された衛兵は反論するも、司祭の職に似つかわしくないがなり声で喚き立てられてたじろいだ。
しかし、そうした鉄格子の外の諍いなど、莉亜にはどうでもよかった。
初めて耳にした事実に、胸を鷲掴みにされていたからである。
「壁画の、呪い……?」
この壁画をパーティまでに直せなければ処罰を受けると言われていた。だからこそ莉亜は完成させれば突破口が開けるかもしれないと、一縷の望みに賭けて、今日までこの埃まみれの部屋でジルの言う“浄め”を続けてきたのだ。
しかし、これでは話が違う。
「わ、わたし、死ぬはずだった、んですか」
ぽろりとこぼれた声が震えている。
耳ざとく聞きつけた司祭が、ふんと鼻息荒く鉄格子をわざと大きく揺らして威嚇した。
「ああそうだ! なにせお前は大罪人だ! いにしえより我が国を守る竜の死の息吹に取り殺されるのが相応しい。それをどんな手を使ったのか知らんが、おめおめと生き恥を晒しおって! 死に損ないには聖女様のお披露目パーティで余興として役に立ってもらうくらいしか使い道が──」
「去ね」
瞬間、鉄格子ごと司祭が吹き飛んだ。
控えていた衛兵も巻き添えを食らって壁に打ち付けられる。鎧の砕けるありえない金属音の反響で、莉亜は耳がおかしくなりそうだっった。
ぶわりと舞った風で土ぼこりが立つ中、それすら貫く勢いで低い声が轟いた。
「我が聖女を愚弄するな」
けほ、と咳き込む莉亜を抱えるジルから発せられている声だと──そう認識するのに時間がかかった。
それは司祭達も同じようで、見苦しく転がった四肢をばたつかせて、起き上がるなり目をひん剥いている。
「き、貴様何をする! 聖竜を祀る司祭たるワシへの愚行、国家反逆罪と看做すぞ!」
「祀る?」
嘲りとはこのような声音か。
聞いた事もない冷たさ──否、温度すら感じさせない抑揚で、ジルは司祭を見下ろす。
「陥れ、搾取し、嬲るの間違いではなかったか」
「な、なにを……貴様、何を知って」
裏返る声は滑稽だったが、莉亜には笑う余裕はない。
ジルは莉亜を抱き寄せる腕に力を込めて言い放つ。
「ジルヴァス・クローネ……遠い昔、貴様らが壁に塗り込めた、お人好しの竜だよ」
無論、司祭は壁画修復の進捗などを確かめに来たわけではない。
聖女を騙った罪人の成れの果てを晒してやろうと乗り込んできたのだ。
壁画に込められた呪いで、あの日の夜明けを待たずして莉亜は事切れる目論見だった。
しかしどうだ。
莉亜は生きている。
あろうことか、壁画は大部分が修復され、往年の輝きに満ちている。
そして何より──彼女ひとりを押し込めたはずの牢に、見知らぬ男がいるのだ。
司祭は目を見開き、後ろに控えていた衛兵を小突いた。
「なぜ部外者がここにいる? 貴様、見張りを怠ったな!?」
「な、何をおっしゃいますか、司祭殿! 壁画の呪いですぐにくたばるゆえ塔には近寄るなと申されたではないですか!」
「ええい黙れ! ワシに逆らうか!」
突如責任転嫁された衛兵は反論するも、司祭の職に似つかわしくないがなり声で喚き立てられてたじろいだ。
しかし、そうした鉄格子の外の諍いなど、莉亜にはどうでもよかった。
初めて耳にした事実に、胸を鷲掴みにされていたからである。
「壁画の、呪い……?」
この壁画をパーティまでに直せなければ処罰を受けると言われていた。だからこそ莉亜は完成させれば突破口が開けるかもしれないと、一縷の望みに賭けて、今日までこの埃まみれの部屋でジルの言う“浄め”を続けてきたのだ。
しかし、これでは話が違う。
「わ、わたし、死ぬはずだった、んですか」
ぽろりとこぼれた声が震えている。
耳ざとく聞きつけた司祭が、ふんと鼻息荒く鉄格子をわざと大きく揺らして威嚇した。
「ああそうだ! なにせお前は大罪人だ! いにしえより我が国を守る竜の死の息吹に取り殺されるのが相応しい。それをどんな手を使ったのか知らんが、おめおめと生き恥を晒しおって! 死に損ないには聖女様のお披露目パーティで余興として役に立ってもらうくらいしか使い道が──」
「去ね」
瞬間、鉄格子ごと司祭が吹き飛んだ。
控えていた衛兵も巻き添えを食らって壁に打ち付けられる。鎧の砕けるありえない金属音の反響で、莉亜は耳がおかしくなりそうだっった。
ぶわりと舞った風で土ぼこりが立つ中、それすら貫く勢いで低い声が轟いた。
「我が聖女を愚弄するな」
けほ、と咳き込む莉亜を抱えるジルから発せられている声だと──そう認識するのに時間がかかった。
それは司祭達も同じようで、見苦しく転がった四肢をばたつかせて、起き上がるなり目をひん剥いている。
「き、貴様何をする! 聖竜を祀る司祭たるワシへの愚行、国家反逆罪と看做すぞ!」
「祀る?」
嘲りとはこのような声音か。
聞いた事もない冷たさ──否、温度すら感じさせない抑揚で、ジルは司祭を見下ろす。
「陥れ、搾取し、嬲るの間違いではなかったか」
「な、なにを……貴様、何を知って」
裏返る声は滑稽だったが、莉亜には笑う余裕はない。
ジルは莉亜を抱き寄せる腕に力を込めて言い放つ。
「ジルヴァス・クローネ……遠い昔、貴様らが壁に塗り込めた、お人好しの竜だよ」