仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
いつも自分は二の次で最優先は柚葉。
たまに柚葉はもう少し自分のことも考えて欲しいと不満そうにしているけど、それでいい。
「柚葉が笑顔でいてくれたら、それだけで幸せなの」
「……なんで?」
壱護はじっ、と杏葉の目を見て尋ねる。
「なんでそこまで妹のことばかり考えられるんだ?あんたにとってたった一人の家族だってことはわかるけど」
壱護に聞かれ、杏葉は少し悩む。でも隠し立てすることでもないかと思い直し、話すことにした。
「実は私と柚葉は腹違いなんだ」
「そうなのか」
「私の両親は私が五歳の時に離婚したの。実の母はちょっと難ありの人で育児ができなくて、私と父を捨てて出て行った」
壱護は余計な口は挟まず、ただ杏葉を真っ直ぐ見て静かに聞いていた。
「母親に抱きしめてもらった記憶が私にはない。でも、父が再婚して新しく母になってくれた人はとても優しかった。柚葉が生まれて、初めて私は家族らしい家族ができたと思ったの」
母親と手を繋いで歩く子どもを見る度に、どうして自分には母親がいないのだろう。
どうして他の子のように愛してもらえなかったのだろうと思った。
父がいて母がいる当たり前で幸せな家庭が望めなかったのは、どうしてなのだろう。
だけど、父が再婚したことで杏葉の望んでいた家庭が手に入った。
「柚葉ってね、初めて話した言葉がママでもパパでもなく、ねーねだったの。もうかわいくって仕方なくて。
柚葉がスケートを始めてみんなで応援して家族が一つになったみたいで、私はそれがとても嬉しかった」