仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
柚葉が杏葉の欲しかったものをくれた。
笑顔の絶えない仲の良い家族、優しい父と母、かわいい妹。他に何もいらなかった。
「それなのに、私が壊したの……」
あの日、杏葉が提案した。柚葉の妊娠がわかり、両親は新婚旅行に行けていなかった。
柚葉も大きくなったし、二人で留守番しているから結婚記念日に二人だけで旅行に行ってきてはどうかと提案したのだ。
まさかその飛行機が事故に遭うとは思わなかった。
「私があんなこと言わなければ、二人は今頃……っ」
自分のことを何度も責めた。一人でいると胸が張り裂けそうになる。
苦しくて苦しくて息ができなくなる。
そんな時、親戚が柚葉のことを引き取ろうと言った。杏葉は拒んだ。
――私から柚葉まで奪わないで。
――私にはあの子しかいない。
「……なんか湿っぽい話をしちゃったね」
杏葉は乾いた笑いを浮かべる。
「ごめん、暗い話するつもりじゃなかったんだけど」
「いや、立ち入ったこと聞いて悪かった」
壱護が頭を下げるので杏葉は驚いた。
あまり楽しい話ではないので気を遣わせてしまうかもしれないとは思っていたが、申し訳なさそうにされるとこちらも心苦しくなる。
「そんな顔しないでよ!今は柚葉の夢を応援するのが生き甲斐だから」
「……あんたのこと色々誤解してたわ」
「えっ」
「いい女だな」
「……へ、」