名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「そういえば、雛未さん。浴衣は持ってるんですか?」
「持ってないけど」
実家にはあったような気がするが、ベリが丘行きの荷物の中には入れなかったと記憶している。
「うちの店のものでよろしければ、お貸ししますよ」
「うちの店?」
「私の家、櫻坂で呉服屋を経営してるんです」
茉莉が呉服屋の娘だとは初耳だった。
「折角の花火デートなんですから、もっと張り切って着飾りましょうよ!」
「え、あ!?でも……」
「じゃあ十六時に集合ってことで!櫻坂の『熊谷呉服店』って言えば、タクシーの運転手には通じますから」
雛未がうだうだしている間に、茉莉は手際よく予定を決めてしまった。
持ち物までリストアップすると、浴衣を着る際の注意点を話し始め、どこまでも手厚かった。
(浴衣か。何年ぶりだろ)
強引に押し切られたものの、雛未は年甲斐もなくワクワクしていた。
(浴衣をきて花火見物なんて、まるでデートっぽくない?)
抱いてはいけない妄想が次から次へと溢れてきてしまい、慌ててかき消していく。
(ちがっ!デートじゃないんだって!なんなのもう!)
妄想劇場を頭の中で繰り広げていた午前は、瞬く間に過ぎていった。