名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

「あれ?もう行くんですか?祐飛先生が迎えに来るんじゃ……」
「現地集合に変更になったの。ホテルまではタクシーを拾うから大丈夫」

 余計な気を遣わせるのも悪いと思った雛未は、祐飛のドタキャンのことは告げず、口からでまかせを言って誤魔化した。
 熊谷呉服店を後にすると、タクシーに乗り、ひとりでホテルへ向かう。
 花火大会のメイン会場の付近は交通規制が行われていたが、櫻坂の坂上に位置する熊谷呉服店は会場からやや距離があるため、問題なくタクシーを拾うことができた。

(馬鹿みたい……)

 祐飛が医者である以上、いつ何時呼び出しがかかるかわからないと理解していたはずだった。
 ひとりだけ張り切って浴衣なんか着て本当に滑稽だ。
 窓の外ではメインストリート夕のあちこちに電飾が灯され、楽しげな屋台がいくつも並び始めていた。ベリが丘の街全体が花火大会に向けて浮き立っている。
 あれほど楽しみにしていたのに、花火大会を彩る風景が途端に空虚なものに思えてしまう。
 
 タクシーがホテルに到着し、エントランスへ降り立つと、雛未は初めてブルームーンホテルの中に足を踏み入れた。
 明るく開放的なロビーの中をひとり寂しく歩いていき、フロントで機械的にチェックインを済ませる。
< 112 / 190 >

この作品をシェア

pagetop