名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
雛未はマンションに帰ると、スーツケースを床に広げ、荷造りを始めた。
ベリが丘に来てから色々と買い込んでしまったが、ほとんどの物は置いていくつもりだ。
茉莉から借りたままになっていた医療事務のテキストも、祐飛からもらったプリザーブドフラワーも。
必要な物だけをピックアップして、ひたすら手を動かしていく。
(心のどこかで期待していた)
娘だと打ち明けたら、感激して受け入れてもらえるんじゃないか。
ひょっとしたら温かい家族の輪に入れてもらえるんじゃないか。
あちらの家庭を壊したくないというのは建前で、本当は一度失った家族という存在を取り戻したいと望んでいたのだ。
――なんて、浅ましい。
國治は雛未の心の中を見透かしていた。
だから、はっきりと『お前は娘じゃない』と雛未に突きつけた。
雛未の居場所は最初からここにはなかった。
すべてあの手紙が作り上げた幻だった。
(帰ろう……)
今や雛未をこの地に繋ぎ止めているものは何もない。
これで大手を振って故郷に帰れる。
(大丈夫。きっとうまくやれる)
母との思い出が詰まった古い一軒家に戻れば、きっと父親のことも、祐飛のことも忘れられる。
この街にやってくる前はなんでもひとりでやってきたのだ。また、ひとりに戻るだけ。なんてことはない。