名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「雛未!」
祐飛が階段を駆け下りていくのが、視界の端に止まる。
どうやら見つかってしまったらしい。
(大丈夫)
祐飛の足がいくら早くても、あの入り組んだ通路からこの先頭車両までは、一足飛びに駆けつけられない。
「行くな!」
祐飛の制止を無視し、雛未は乗車列の最後尾に並んだ。
列は次々と進んでいき、雛未も他の乗客と同じように特急列車に乗車する――はずだった。
列車に乗り込もうと一歩を踏み出そうとしたその瞬間のことだ。
『雛未、行ってはダメよ』
――亡くなった母の声が聞こえたような気がした。
即座に後ろを振り返るが、プラットホームには誰もいなかった。
(気の、せいなの……?)
秋の冷たさを帯びた気持ちのよい風に誘われるままに、出発寸前の特急列車から距離をとる。
我に返りもう一度特急列車を乗り込もうとした時には、既に背後で扉が閉まっていた。
雛未をプラットホームに置いたまま、特急列車は徐々に加速していき、線路を猛スピードで駆け抜けていった。
雛未は特急列車に乗れなかった。
最後の一歩を母に阻まれてしまった。