名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

「俺は雛未を誰かの代わりだと思ったことは一度もない」

 祐飛は雛未の憂いを晴らすように、キッパリと言い切った。

(……今、何て?)

 雛未を見つめる祐飛の瞳が熱を帯びていく。
 
「愛してるんだ――。どこにも行くな。一生、俺の傍にいろ」

 その瞬間、自分がどれほど愚かだったのか、わかってしまった。
 祐飛が『代わり』なんかで満足するような、ちんけな人ではない。
 欲しいものは欲しいと、声を大にして言える人だ。
 この半年、ずっとそばにいたのに、雛未はそんな簡単なことにも気がつかなかった。
 ――祐飛は最初から雛未を望んでいてくれた。

(ああっ……!)
 
 雛未はたまらなくなってスーツケースを置いて祐飛の元へと駆け出した。
 最初は一歩一歩確かめるようにゆっくりと、次第に速度が上がっていく。
 涙が頬を伝い、後ろへ流れていく。

「祐飛さん……!」
 
 思いの丈をぶつけるように抱きつくと、祐飛はしかと受け止めてくれた。

「祐飛さんが好き!好きなのっ……!」

 雛未は痛いほどに泣き叫んだ。声は裏返り、みっともないことこの上なかった。それでも、力の限り愛を伝える。
 どうして祐飛はいつも、雛未が望むものをくれるんだろう。

「ああ。俺もだ」

 祐飛は泣きじゃくる雛未を二度と離すまいと、きつく抱きしめてくれた。
 
(やっと言えた――)

 瞼を閉じると、目尻から涙が溢れていった。

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