まどろみ3秒前

そのとき、何かが私の頬に触れる。


「…っ」


彼の大きな手が、私の頬を包み込む。どうしようもなく、冷たい手。

片手なのに、私の頬は容易に包まれてしまう。彼の手は、とても大きい。


「泣き虫」


彼の優しい茶色い目に、何も言えなくなる。

私は、不思議に思った。

なんで泣いてたのかって、聞かないの…?


「ほっぺにまだ泣いたあと残ってる」

「…別に、どうでもいいでしょ」


ポツリと呟く。不機嫌に目を合わさない。


「俺ね、そういえば、なんで翠さんを橋に呼び出したのか、あんまり伝えれてなかったなって。だから伝えようと思ってきたんです」


雨上がりの空。私の影が出来ていた。そして、ひとりだったのに、もうひとりの影。


確かに、よくわからなかったな、なんてぼんやり思った。

まず、もう昨日のことなんか記憶にないし、まあ正直、別に興味はない。私は、暇潰し感覚で彼の話を聞こうと耳を貸した。


「へぇ、なんですか?」


お腹空いてるんですけどー、なんて、冗談ぽく笑ってみる。家に忘れた、なんて情けないことは絶対言えない。
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