まどろみ3秒前

「ひる」


思わず「え、ひる?」と聞き返してしまった。猫の名前にひるなんて、少し珍しい気もする。すると、彼はまた頬を膨らませる。


「なに、なんか文句でもある?」

「い、いやいや。人の名前に文句だなんてそんな全然何もないですから」

「は?人じゃないけど」


「あ、間違えた…」という私の言葉を最後に、しばらく静寂が続く。なんて私は話すのが苦手なのだろう。この時のために、頑張って国語だけでも勉強してれば…と悔やむ。


「俺は朝だから、昼にした。いい名前って思うんだけど、翠さんも思うよね?」

「…あ、はい。…あの、夜っていうのはなかったんですか?いや、全然ひるっていい名前だと思うんですけど」

「夜は、俺の名字の夜野があっちゃうから。夜、朝ときて、昼に決めたんです」


あーなるほど、と頷くと「ごめん」と彼は謝ってきた。


「今日は、猫をひとりにさせちゃってるんで、まあ、心配だからなって。行かなきゃで。死んでたら、困るし」

「あーそれはもう、全然大丈夫です」


みてくれる親や兄弟は、いないの?

そう聞こうとしたけど、やめた。質問ばかりだと、私がもっと帰ってほしくないような誤解が生まれてしまう。

私は、そこまで彼のことを知る必要もないのだから。聞くという時間も頭も、無駄だ。
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