私と彼の溺愛練習帳
 あなたは愛されているのだと、自分はこんなにあなたを愛しているのだと、わからせたかった。だが、きっとそれは彼女を傷付ける。

 だから、なにも言えずに家を出てしまった。少し散歩をして、自分を落ち着かせたらすぐに帰るつもりだった。なのに、どうしてだか帰れずに征武の家に来た。そのままずるずると居座り、二日が経過した。

「僕、彼女が好きなんだ」
「本人に言えよ」
「言ってるんだけどさ」
「拗ねてここにいられても迷惑なんだよ。本人に伝わるまで言うしかないだろ」
「言葉じゃ足りないんだよ」
「だったら本人のご希望通り抱いてやれ」
 征武は大きく息をついた。
 そんな簡単な話じゃない、と閃理は膝に顔を埋める。

「結局、犬もくわねーやつじゃねえか。さっさと帰れ。彼女の望みをかなえてやれよ」
「……明日帰る」
「先延ばしにしてもいいことないと思うけどね。連絡だけでも入れておいてやれよ」
 言って、征武はドローンを棚に置いた。
 閃理はスマホを取り出し、眺めてからポケットに戻した。



 翌朝、閃理は明るい日差しの中、とぼとぼと自宅へと歩いた。時刻はまだ八時だ。
 今なら雪音は家にいるはずだ。出勤前の慌ただしい時間だが、そのほうがいろいろ聞かれなくて済むかもしれない。

 帰ったら、おかえりって言ってくれるかな。
 閃理は不安で顔を上げられない。ただ足元だけが見える。右、左、規則正しく動く自分の両足。
 彼女は怒るだろうか。
 むしろ泣くかもしれない。
 気がついて、はっとした。
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