私と彼の溺愛練習帳



 気が付いたら、部屋には光が満ちていた。
 眩しい朝にまばたくと、閃理のやわらかな笑顔が見えた。
「おはよう」
 彼は彼女の頬にキスをした。ゆるやかに腕を伸ばし、雪音を抱き寄せる。

「体は大丈夫?」
 閃理がたずねる。
「……平気」
「良かった」
 閃理はぎゅっと彼女を抱きしめる。

 素肌の感触に、雪音はどきどきした。やらわかくて温かくて、すべすべしていた。ずっと抱きしめられていたい。
 不思議な充足感が心にあった。欠けていたなにかが埋められた。それはきっと閃理でなければ埋められないものだった。

「ずっとこうしていたい」
 雪音は閃理の胸に頬を寄せた。
「そんなこと言われると、また食べたくなっちゃう」
「やめてよ」
 雪音は照れて目を閉じた。
 くすくすと閃理が笑い、彼女の瞼にくちづけた。

 ゆるゆるとベッドで過ごし、空腹に催促され、仕方なく二人でベッドを出た。
 閃理が手早くフレンチトーストを作り、コーヒーを淹れてくれた。
 ココアをふりかけた生クリームが添えられていた。甘いフレンチトーストは沁みるようにおいしかった。コーヒーの苦味がほどよくて、おいしさがさらに引き立った。

「ごちそうさま」
「どういたしまして」
 幸せな食卓だった。心おきなくこんなに幸せになれるのは二十一年ぶりだった。
 父が残してくれた家で、まだ母と暮らしていた頃だ。

 雪音は、じっと閃理を見つめた。
「どうしたの?」
 閃理がふんわりと笑顔を向けた。

「家、取り返したい」
 雪音はつぶやいた。
「弁護士雇う?」
 雪音は首を振った。
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