初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「彼と別れたんでしょ? 狙っちゃえば? 失恋には新しい恋よ」
「簡単に言わないでよ」
「あんたの性格だとそうよね」
 順花は納得したようにうなずいた。
 初美はため息をついてコップの水を飲んだ。

「そういえば、営業部長の来島貴斗(くるしまたかと)、彼女と別れたって」
 初美は咳き込んだ。
「ちょ、大丈夫?」
「大丈夫」
 ケホケホと咳き込みながら答える。
「あんた一時期憧れてたもんね」
 それどころか、最近まで付き合っていた。

「社長の息子で会長の孫でイケメン。目的のためなら手段を選ばないって噂。茶髪がチャラいし性格悪いって噂もあるけど、人気あるのよねえ」
「そうね」
「この会社で三十五歳で部長って、そうとうよね」
「仕事はできるのよね」
 性格はよろしくなかったけど、初美は思い出す。

 彼が空き缶を道路に捨てたから注意すると、初美に薄ら笑いを見せた。
「だったらお前が拾ってこいよ」
 貴斗が指差す道路には車がひっきりなしに通り、空き缶はころころとあてどなく転がっている。
「無理よ」
 困惑する初美を、貴斗は嘲笑った。
「お前は偽善者だな」
 思いもかけない言葉に呆然とした。
 直後、トラックが空き缶をぐしゃりと踏み潰した。
 ぺたんこになった缶は転がるのをやめて、やって来る車に次々と踏み潰された。

 ケンカしたくなくて、その後は我慢していた。
 彼はごはんのときにいただきますを言わない。なにかしてあげてもありがとうの一言がない。そんなところが気になっていた。浮気がなくても、早晩、別れていただろう。

「モテるし、つきあったらきっと大変よね」
 大変だったよ、と言いたいが我慢した。
 浮気が発覚してすぐ、病院で性病の検査を受けた。屈辱だった。 すべて陰性だったから、ほっとしていた。
 は、と気がつく。
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