初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 嫉妬ですか?
 彼の言葉が蘇る。
 そんな。
 初美はぎゅっと拳を握った。そんなバカな。

「ごめん、偉そうなこと言ってるけど、俺も来たばっかりなんだよね」
 エロそうなこと、と聞こえて自分の耳を疑った。
 疑って良かった。偉そうな、の聞き間違いだと気づけたから。

 だけど、もう一つのことは、気づきたくなかった。
 ……もう彼を好きになってるなんて。
 早すぎやしないか。失恋してから一ヶ月もたってない。しかも、あんな最悪の出会いをしたのに。
 思い出してまた顔が熱くなった。

「転職でしたよね。前はどこにいたんですか?」
「お風呂を作る現場にいたよ」
「作る現場ですか」
 筋肉がついていたのは、そのせいだろうか。肉体労働している姿が思いつかなくて、驚いた。今はスーツがとても似合っている。

「大変だけど楽しかった。今はユニットバスのご家庭が多いけど、ユニットバス専門の職人がいるんだよ。けっこう施工は大変でね」
「意外です」
 ユニットバスはむしろ楽なのかと思っていた。パコッとはめるだけ、みたいな。

「全部決まってるから、例えば床だけ別の素材で、なんてことはできないけどね」
「個性は出せないんですね」
「だから最初に、万人受けしてなおかつ飽きないデザインを作らないといけない。俺達は直接はデザインしないけどね」
 デザイン自体は別の部署の仕事だ。

「責任重大ですね」
「でも、お風呂が好きならきっとやっていけるよ。好きなんだよね?」
「はい」
 言葉が続かなかった。

 好きって。今その単語を聞きたくない。
 その後も会話は途切れがちで、初美はしょんぼりしていた。
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