初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「ドジだね」
 くすりと笑われ、また恥ずかしくなった。彼の体が近くてドキドキした。やわらかな彼の肌が思い出されてしまい、さらに鼓動が早くなる。

「すみません」
 うつむいて彼から離れた。彼の顔は見られそうになくて、必死に海を眺めた。
「このあとの予定は?」
 蓬星がたずねる。
「旅館に行きます」
「どこ?」
「洞窟みたいな温泉のとこです。船で行くんですよ!」
 どや顔で答えると、彼はけげんな顔をした。

「もしかして」
 と彼はホテルの名前を言う。
「同じところです」
 初美は驚いて答えた。
 いつぞやの悪夢が蘇る。
 はは、と二人は乾いた笑いをもらした。



 同じホテルなら、ということで、彼は車で送ってくれた。
 成り行きで一緒に行動しているが、彼は本意ではないのだろう。そう思うと、急に申し訳なくなってきた。
 車を専用駐車場に停めて、一緒に迎えの船に乗った。
 ホテルは岬にあり、車でも行ける。が、無料送迎船が出ていた。

 彼が一人で自由を満喫する時間を奪った罪悪感はあったが、陸路じゃないことにやはりわくわくして彼と話をした。彼はいつものように微笑していたが、初美はいつも以上にどきどきしてしまった。

 もし同じ部屋だったらどうしよう。
 そう思いながらチェックインする。
 フロントで別々鍵を受け取り、ほっとすると同時に別の感情がわいてきて驚いた。
 なんで私、ちょっとがっかりしてるの。

「じゃ、また」
 彼が歩きだす。同じ方向か、と彼の後ろを、きまずい思いで歩く。
 気付いた彼が振り返る。
「どうしてこっちに?」
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