婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
「え……?」
「聖女に与えられた治癒能力は、ただ癒せばよいというわけではないということです。私の言葉に耳を貸す必要はございませんが……どうか、正しいご判断を」
不思議そうに首を傾げる彼女は、私の言っている意味を理解していないだろう。それでもいい。いつか身に染みてわかることだ。
「馬鹿馬鹿しい! 」
ライアンが鼻で笑う。
「聖女の役目を全うしない奴の言葉など――」
「お言葉ですが!」
ライアンの言葉を遮り、私は声を張り上げた。
「戦場で不利な場面でも強行突破を指示した殿下とて同罪では? たとえ治療すれば間に合った者を私が治療したとして、あなたはその騎士たちにまた先陣を切らせるおつもりでしょう? 間接的に『死ね』と申しているのと同じです」
「なっ……!」
「あなた方が崇拝する聖女の治癒は、伝承通りどんな怪我も治します。その場にいれば助かる命もあることでしょう。しかし、命には限界がある。生かし続けることなど不可能なのです。それがどうしてわからないのですか?」
ライアンの婚約者になってからずっと、私自身が戦場に赴くことはしなかった。それはこの能力がとても価値のあるもので、容易に使ってはいけない代物だとわかっているからだ。
戦場に出ない代わりに、私は戻ってきた騎士たちの治癒に全力を注いだ。永い眠りについた者には丁重に葬り、祈った。
それなのに彼はどうだ? 命を削って戦ってきた者へ言葉もかけることなく、勝手に令嬢を連れ込んで、保身のことしか考えていない。