婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
「騎士とて一国民です。国民の命を軽んじるあなたに言われる筋合いはございません」
ぴしゃりと言い捨てると、ライアンはわなわなと震え、唇を噛んだ。今にでも喉から出かかっている暴言を抑え込むのに必死になっているのが伺えた。
「参りましょう、ローグベルト殿下」
「ええ」
私はもう一度彼らにお辞儀をして、ローグベルト殿下とともに踵を翻した。行く先を観客たちが左右に分かれて道を作ってくれる。花道というにはとても悲しいものだが、心遣いに感謝する。
すると、後ろから壇上にいるライアンが高々と笑った。
「……ははっ、やっとこの息苦しい生活に終止符を打つことができた。すべてはナタリー、君が聖女の能力に目覚めてくれたおかげだ。これからはずっと一緒だよ」
「ライアン様……いいえ、私なんて何も。でも一緒に居られるのは嬉しいですっ!」
「ああ、泣かないでおくれ。こんなにも可愛らしい顔をここで見せるなんて……それに比べて、エマリネは可愛げのない奴だった。笑顔ひとつも嘘くさい、頭だけが冴える女は本当にくだらない!」
吹っ切れたようにふんぞり返るライアンの言葉に足を止めた。
これは私が生まれるずっと前から引き継がれてきた政略結婚。
最初から愛のない婚約。
最初から、彼のことなど一瞬たりとも想ったことはない。――こんな人のために今まで生きてきたのかと思うと、無性に腹が立つ。
……ああ、でもこれで最後か。
そう思った途端、腹の底で沸々と苛立っていた感情が吹っ切れた気がした。