君は優しい嘘つき

歩には知られたくなかった。
でもそんなのは無理だとわかっていた。


仕事一筋の父。
教育熱心な母。
優秀な兄に平凡な私。

これだけなら特に問題のある家庭ではなかった。
小さい頃はそれなりに楽しい記憶もあったから。


けれどこれだけでは収まらなかった。


仕事一筋であまり家庭を顧みない父。

それに対する苛立ちを抱え、より子どもへの教育の熱が上がる母。

他よりも少し優秀だったせいで母からの期待を一心に受けておかしくなってしまった兄。

誰からも気にかけられない私。


私が高校生になったこの年に、兄は三浪目を迎えた。

医学部に行かせたかった母は兄を勉強漬けの日々にしたけれど、それでも兄は滑り止めも含めて全て落ちてしまったのだ。


一浪・二浪と母からの期待を受けて頑張ってきた兄は、ついに三浪目で爆発してしまった。


暴言は当たり前、気に入らなければ物を投げつける。

優しかった兄は押さえつけられた反動で周りに当たり散らかすようになってしまった。


可愛かった息子の急な変わりように母は泣き喚き、そんな荒れた家庭でさえも父は変わることはなかった。

そんな父に対し、今度は母が今まで溜まってきた鬱憤を晴らすかのように爆発した。

常に口論が絶えず、色んな音が鳴り響く我が家は、一気にご近所さんの話のネタへと持ち上がった。

もうここら一帯で知らぬ人はいないといえるほどの醜聞だった。


そして隣の家ならば、より一層色んなことが聞こえてきたはずなのだから。


でも、例え歩が知っていたとしても。
それでも自分の口からは言いたくなかった。


恥ずかしかった。
そんな家族が。荒れた家庭の中で毒にも薬にもなれない、逃げることしかできない私が。


好きな人にはこんな部分を見せたくなかった。

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