君の名に花束を
その瞬間、パッとパソコンの画面に審査員が素晴らしいと判断した小説と作者の名前がズラリと並ぶ。恐る恐る女性は目を開けた。

「あっ……!」

パソコンの画面を見た刹那、女性は椅子から勢いよく立ち上がり、コートを羽織って鞄を手にする。そして家を飛び出した。

コンテストの結果を、一番に伝えたい人が彼女にはいる。その人に会いたい。その気持ちは大きく膨らみ、冬の寒さなど忘れてしまうほどだった。

電車に乗り、揺られること十五分。女性は駅前で花束を買う。赤いチューリップと白いスイートピーの花束だ。チューリップとスイートピーは春に咲く花のため、女性はもう花屋に並んでいることに驚いてしまう。

「結構驚かれるんですよ。春のお花なんですけど、花の市場では冬の時期に出始めるんです」

「そうなんですね」

自分の手の中に咲いた春の花を女性が見つめていると、店員が微笑みながら訊ねる。

「赤いチューリップの花言葉は「愛の告白」なんです。もしかして、その花束を渡すのは恋人の方ですか?」
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