君の名に花束を
女性の胸がチクリと痛む。もしも、あの日の運命が変わっていたとしたらこんな気持ちで花束を持っていなかったかもしれない。

「まあ、そんな感じの人です」

女性は無理に笑みを浮かべ、花束を手に花屋を出る。そして歩くこと数分、丘の上にある墓地へとやって来た。たくさんのお墓が並ぶ中、女性は迷うことなくある人の元へ向かう。

最近は忙しく、ここに来ることができなかった。早く会いたい。あなたに会いたい。その気持ちが強まり、女性の足は自然と早くなる。そして一つのお墓の前で女性は足を止めた。

「会いに来たよ。今日はとってもいい知らせがあるの」

女性は手を伸ばし、お墓に触れる。墓石は冬の風に晒されているせいで氷のように冷たく、人のような温もりはない。女性の指先が一瞬にして冷たくなる。

「私、コンテストで最優秀賞をもらったよ！君が叶えたかった夢を叶えたよ！」

女性の頰に涙が伝う。ここに来れば、いつでもこの石の下で眠っている人に会える。だが、その人と話すことは当然できない。
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